Sakumi物語

小学5年生になり、日記の宿題はなくなったようで、なかなかSakumi日記を読めなかったのだが、物語を書く課題がでたそうだ。ちらりと読んでみると、これまた、普通に一読者としておもしろい。

 

「夏のふしぎなぼうけん」 

夏の暑い日。あれはぼくが、三年生のときだった。
 あの日は家族みんなで、山に出かけにいった。ぼくは、いつのまにかにか車の中でうとうととねむってしまった。 
はっと気づいて目がさめると、そこは森の中だった。上のほうからは、鳥の鳴き声やせみのやかましい音が聞こえる。ぼくは、すっかりおどろいてしまった。さっきまで車の中でねていたのに起きてみたらこんなところに来てしまっていたのだ。ぼくは、すこしこわくなって、みんなをよんだ。
「おかあさーん。」
「おとうさーん。」
「かづやー。」
しかし、いくらまっても返事はなかった。ぼくは、ぽつんと一人取り残されてしまった。ぼくは勇気をふりしぼってもっと森のおくのほうに歩いていった。
 そこは、じめじめしていて暗く、不気味なところだった。ふるえながら歩いていくと、大きな木がつっ立っていて、におうさんみたいに道に立ちふさがっていた。と、その木にみょうに不思議なあながぽっかり空いている。ぼくは、まじまじとのぞきこむと、あなの中にすいこまれてしまった。その中は目がくらむようなまぶしさだった。ぼくは目をぎゅっとつぶってどんどんすいこまれていった。
「わぁ~。」
そのしゅん間、どすっとどこかに落っこちてしまった。
ぼくは、体がちくちくして目がさめた。どうやら気絶してしまったらしい。
体がちくちくしたのは、大量のくっつきむしがくっついていたからだった。
そこは、草ぼうぼうのしげみの中だった。がさがさっ何かが近づいて来る。ぼくは、息をのんで何が来るか待ち構えた。がさがさっ次のしゅん間しげみから大きな何かがとび出した。ぼくは、
「もう終わりだ。」
とつぶやいた。が、何も起こらない。おそるおそる顔を上げると、ぼくは、息がつまりそうになるくらいおどろいた。なんとそこには、ぼくの何倍も大きいバッタがいたのだ。ぼくはおどろいて、
「ここはどこなんだ。」
と言うと、バッタが言った。
「ここは、虫の世界だ。お前はだれだ。どこから来た。」
そうたずねられて、ぼくはびっくりした。へんなところへ来たと思ったら虫がとてつもなく大きくて、それにしゃべれるのだ。ぼくはもう、何が何だか分からなくなった。ぼくがぽかんとしているとまた、バッタが言った。
「おまえはだれだ。」
ぼくは、うろたえながら言った。
「ぼくは、けんじ・・・。」
それだけ言うとバッタが
「おまえは虫か。」
と聞いてきた。
ぼくは虫とまちがえられるのもいやなので、
「人間の子ども。」
と答えた。
するとばったはみょうにおどろいて、
「なぜ人間が・・・。」
とつぶやいた。ぼくは、いっこくも早くここから帰りたいからもとの場所ににげようとした。しかし、バッタはぼくをつかまえて、
「どうやって来た。」
と聞いた。ぼくも、あまりどうやって来たかは分からないから、
「分からない。でもあそこからここへきたんだ。」
と言ってさっきの穴のほうを指さした。そしてそこまでバッタといっしょに走っていって、あなのあったところをのぞきこんだ。だが、そこにあったはずのあなが消えている。
「もう帰れないかもしれない・・・。」
そう思うとすごくさびしかった。だがこのバッタなら帰り方を知っているかもしれない。そう思って、ぼくはまっ先に聞いた。
「ここのあなはふさがってしまった。でも、きみは、ほかの帰り方を知らないか。もし、知っているなら教えてくれ。」
すると、バッタは不思議なことを言った。
「ここの言い伝えで昔、一人の人間がここに迷いこみ、長ろうに帰りたいと助けを求めた。そこからはその人間がどうしたかは知らない。だが長ろうなら何か知っているかもしれない。帰りたいのなら長ろうに聞いてみるといい。」
ぼくは、もしかしたら帰れるかもしれないと思い、
「その長ろうのところまで連れていってくれ。」
と言った。そしたらバッタが
「おれのせ中にのれ。」
と言った。ぼくは、少しどきどきしながらバッタのせ中にとび乗った。
いきおいよくバッタが走り出した。いや、走るというよりも大ジャンプをしてものすごい速さでとんでいるといったほうがいいだろう。
身を切るような風が体にふきつける。あっというまに長ろうが住んでいるところにたどりついた。そこは、土がもり重なっていて、そこに大きな穴が空いていて、下に草がしいてあるというようなところだった。
ぼくとバッタは、あなのおくのほうに入っていった。少し行くと前に大きなとびらがあった。そこでバッタが
「おまえはここで待っていろ。」
そう言ってから、とびらをあけて中に入っていった。
そこのろうかのような所は、横にたいまつがゆわえつけてあって、少し暗かった。やっぱり一人だと心細い。バッタがいたほうが心強かった。しばらくして、とびらがあいた。とびらから少し顔を出したバッタが
「入ってこい。」
と言った。
ぼくは少しおどおどしながら入っていった。そこは大広間だった。前のほうに、大きないすにすわっているカブトムシがいた。そのカブトムシはいかにも長ろうそうにひげを生やしていて、けっこう年をとっていそうだった。
ぼくは、その長ろうの前にすわった。長ろうが話はじめた。
「人間の子どもよ。いかにもわしは長ろうじゃ。それで、聞きたいことは何じゃ。」
ぼくは、思っていることを話した。
「ぼくは、人間の子どもです。ぼくは、木にあいていたへんなあなにすいこまれてここまで来ました。しかし、そのあながふさがってしまって帰れなくなってしまいました。でも長ろうなら帰る方法を知っていると思ってやって来ました。何か知っていたら教えてください。」
長ろうが答えた。
「昔。ここに人間が迷いこんだことを知っているかな。」
「はい。」
ぼくが答えた。
「言い伝えによるとその人間は、ぶじに帰れたらしい。そして、帰るための方法を古い書もつに残して帰っていったという話だ。たぶんここにあったと思うんじゃが。」
そう言って長ろうは大きな本だなからほこりだらけでぼろぼろの一さつの本を取り出した。
「これだこれだ。」
といって長ろうはその書もつをぼくに見せてくれた。ぼくは、それをのぞきこむように読んだ。
「ここから東の山のてっぺんに、石のくぼみあり、そのまん中に勇気の光をそそぎいれ、さすれば道はひらかれみちびかれん。」
とそこには書いてあった。
ぼくは勇気の光というのが気になってたずねてみた。すると長ろうは、
「勇気を持ってそこまでいくんじゃないかのー。」
と言った。よく意味は分からなかったがまあこの書もつがあって助かった。それは、この書もつには、そこまで行くための地図がはさんであったからだ。ぼくはだんだん希望がわいてきた。
「これで帰れるぞ。」
と思ってわくわくした。
長ろうはぼくにクワガタのへいしとバッタをつけてくれた。これで安心だ。
ぼくたちは、またあの暗いろうかを通って外に出た。中が暗かったせいか、外はすごくまぶしかった。さあ、出発だ。ぼくたちは地図を見ながらまず東の山へ向かった。
二人は先歩いていく。ぼくはつかれてきた。ぼくが、
「もうだめー。」
と木によりかかったそのとき木が大きくゆれて上のほうからぶーんと音がした。ぼくは、歯をガタガタいわせてふるえながら上を見た。
「ハチだ。それもものすごく大きいスズメバチだー。」
ぼくは、そうさけぶとわれ先にと二人を追いこして、にげ出した。二人は、
「どうしたんだー。そんなにあわてて。」
と聞いてきた。ぼくはこんなときにそんなこ聞くかよと思いながらあわてて言った。
「後ろ見てみろ。後ろ。」
そうして二人はふりかえって
「ひえ~。まじかよ。」
と言いながら走り出していた。
ぼくはというと、急いでしげみの中にとびこみかくれていたそして、二人の様子をうかがった。なんとそこでは、さっきまでにげていた二人が勇かんにハチに立ち向かっていた。ぼくは、今のうちににげようと思ったがこ一言ですべての思いが変えられた。
「助けてくれ~。お前も戦うんだ。」
目の前で二人がやられている。
「助けなければ。」
ぼくは、勇気をふりしぼってハチにいどんだ。
「待て。ぼくが相手だ。」
そうさけんでぼくは、そこに落ちていた木の枝を拾いハチをたたきつけた。いっしゅんにげようかと思ったが、その思いをこらえた。ぼくのおかげで二人とも立ち上がりハチを見事にやっつけた。
ここでぼくはふと思った。もしかしたらこういうふうに勇気をふりしぼって戦うことが勇気の光につながるんじゃないのかと。
 ぼくたちは、それからしばらく休けいし、また歩きはじめた。ずっと長いこと歩いていた。まわりは木ぎがおおいしげる森の中だった。すごく豊かな森でときどき水のわきでている所へ行っては、その冷たいひんやりとした水で足を洗った。その森をぬけたときだった。前に大きな緑の山が見える。
「あれだ。」
とクワガタが言った。ようやくたどりついた。ほっと気がぬけた。だがここからがいちばんたいへんだ。この山のてっぺんまで行かなければいけないからだ。
ぼくは、まえよりも気をひきしめて緑の山に向かった。山はすごくまえよりも豊かだった。木にはコケが生え、すみきったいずみがわきでていた。ぼくたちはそんな森をずんずんすすんでいった。
 もう少しでてっぺんというときに、つるでできたはしがかかっていた。下には谷間がひろがっている。ぼくは、せ中のほうにさむけがはしった。足がものすごくふるえる。ぼくはごくりとつばをのみこんだ。すごいきんちょうかんがぼくをおそう。ぼくは、思いきってはしをわたりはじめた。ものすごくはしがゆれる。ぼくは、目をつぶった。
「こわくないこわくない。」
とつぶやきながら歩いた。つるのわくにしがみつきながらもようやくはしをわたり終えた。
やっとてっぺんにとうちゃくだ。気がつくともう夕ぐれになっていた。真っ赤な日が山にしずみかけていた。そのあたたかい光を見ていると、おかあさんやおとうさんのことを思いだした。みんながなつかしい。そう思うと、急に帰りたくなってなみだがあふれでてきた。
「いくぞ。」
とバッタが言った。ぼくはなみだをふいて
「うん。」と言ってついていった。
 てっぺんのあちこちをさがした末、ようやく石のくぼみというのが見つかった。
「もんだいは、ここに入れる勇気の光だ。」
とバッタが言った。
ぼくはハチと戦ったとき、ふと思いついたことを二人に話してみた。
「あのさあ、ハチと戦ったときに思ったんだけと、いままでしてきて、勇気が必要で勇気を持って何かしたときのことを思いだしたらいいんじゃないのかな。」
とぼくは話して、みんなで今までのことを思いだした。すると急に石のくぼみのところが光りだして、ぼくがすいこまれたあなとそっくりのあながあいた。ぼくは、
「このあなだ。このあなにはいればいいんだ。」
と言った。これでやっと家に帰れるんだ。でも、これで虫たちともお別れだ、と思うとかなしくなった。ぼくは思いきって
「今までありがとう。さようなら。さようなら。」
と言って穴に入った。ぼくはいつまでも手をふり続けた。
 気づくとぼくはあの大木の前にいた。
「あれはゆめだったのだろうか。」
とぼくはふしぎに思った。とおくでお母さんのよぶ声が聞こえる。ぼくは、うれしくなった。